活鰻調理技術 「串打ち」

関東風の「串打ち」の種類は大別すると、
編刺 ●小一(小打) ●三つ編 ●筏(いかだ) ●ぽん半 ●四分一
の6種類であるが、全てに共通している事は、竹串を使用して皮と身表面の間にある薄い肉を、縫うように微妙な手捌(てさば)きで手早く打つ事である。
 
一般的な打ち方の基本形は、身体は俎板(まないた)に対して自然体で立ち(座り)、左手の親指・人差し指・中指で鰻を固定し間隔を決めて、右手に所持している竹串を親指・人差し指・中指で支えつつ回転させながら挿入する。(右利きの場合)
 
竹串を回転させる事によって滑らかに串が挿入されるとともに、完成した鰻蒲焼から串を抜く際にも綺麗に外れるので、完成品の美観を損なう事が無いのである。
 
現在では怪我防止の為に、鰻を押える左手の中指にと呼ばれる金属の道具を嵌(は)める事が一般的だが、鰻の身を傷つけやすくなるので他の指にも装着する事は勧められない。
 
編刺
  1. 「編刺」に措(お)ける鰻の置き方は、かま部を下・尾部を上(仕事の内容により例外もある)にして、かま部の頸部切口を左・尾部の尾鰭切口を右側にする事。
  2. 親串の打ち方
    1. 1番始めの串を親串と呼び、後の「蒸し」や「焼き」の工程で鰻を持ち上げる時にその重量が最も掛かるので丁寧に打つ事が必要である。
    2. かま部・尾部共に左の切口を一直線に揃えた後、約親指1本分程度開けた位置に切口と平行を保ちつつ竹串を回転させながら身の中に平に挿入する事。
      (後の「蒸し」と「焼き」の工程で作業が困難になるので、特に皮側には挿入しないよう注意)
    3. 上記の例外として、かま部の肝跡部分では肉が薄いゆえ、平に挿入すると身の表面に串が浮き出てしまうので、この部分ではくぼみの薄い肉を持ち上げる気持ちで若干皮側寄りに、竹串で縫うように挿入する。
       
      2(a,b,d)
       
    4. 竹串先端の出方は約1cm程度として(後の「焼き」の工程で使用する火鉢の種類により若干異なる)、鰻の中心にある「割り」の庖丁線に沿って、竹串を回転させつつ鰻本来の姿より若干詰めながら形を整える事。
       
      2(c)
       
  1.  
    1. 2番串の打ち方は、鰻尾部の中心に在る「割り」の庖丁線までは親串と平行に竹串を挿入した後、庖丁線より上の部分においては串1本分だけ親串に近づけ挿入しつつ竹串の先端を出す事。(串の先端は親串の長さにそろえる)
    2. aの結果として、串の導入部よりも串の先端部の方が若干狭くなって、親串は2番目の串に引っ張られるように若干内側に傾く形となる。
       
      3(a)
      3(b)
       
  1. 3の要領で3番串以降最後の止串(終串)まで挿入していくが、その過程で注意する事は、親串から止串まで均等な間隔を保持して、かつ竹串の先端部は全て同じ位置に揃える事。
  2. 最後の止串は、かま部切口より約小指1本分開けた位置に挿入するが、鰻尾部先端の最も肉の薄い場所を通過するゆえ、特に身の中に平に通すように注意する事。
    (失敗すると、蒲焼から串を抜きにくくなり、完成品の美観を損なうので注意する)
  3. 全ての串を挿入した後、再度竹串を回転させながら鰻の中心に在る「割り」の庖丁線に沿って形を整える。
  4. 串打ち完成品の形は、鰻本来の形よりも若干詰まった長方形を成し(盛付け後の蒲焼完成品が綺麗な形に仕上がる)、かつ竹串自体は全体的に逆扇形を成すように(「素焼き」の工程において、尾部よりもかま部の収縮率が高い為、結果、素焼き完成品の竹串は導入部から先端部まで真っ直ぐになり、持ちやすくなる)
     
    4,5 6,7
     
    ※以上の「編刺串打ち」過程は仕事の内容・活鰻の種類等により若干の変更も必要である。
  1. 以下のような「編刺串打ち」は悪い例なので注意するとともに、特に複数人数の職場においては、個性的な「串打ち」は本人以外は仕事がし難いので修正する事。
     
    悪例1 悪例2
    悪例3 悪例4
    悪例5
     
小一(小打)
  1. 「串打ち」の中で「小一」と呼ばれる技法は、一般的に重量の重い太いボクと呼ばれる鰻(天然鰻等)を使用する仕事に用いられるが、仕事の内容によっては例外もある。
  2. あえて「編刺」の技法を使わずに、鰻かま部と鰻尾部を別々にして竹串を挿入するが、注意点としては、かま部と尾部に同本数の竹串を挿入する事(「焼き」の工程で仕事がしやすい為)と、串打ち完成後における全体的な竹串の形は「編刺」程逆扇形には成らない事(「素焼き」の工程において「編刺」程形態収縮率に変化が無い為)である。
     
    1,2
     
  3. 2以外の手順は基本的に「編刺」と同様であるが、仕事の内容に拠り親串のすぐ隣に「添串」と呼ばれる補助の竹串を挿入する事もある。
  4. 基本的に「小一串打ち」は、売価の高い蒲焼(かばやき)(天然鰻他)に採用され丁寧な仕事であるゆえ、以下のような悪い例は注意する事
     
    悪例1 悪例2
     
三つ編(みつあみ)
  1. 「串打ち」の中で「三つ編」と呼ばれる技法は、一般的に重量の軽い細い鰻を1本半使用する仕事に用いられるが、「焼き」工程における仕事の容易さを考慮すると下記のような形態が理想的であると同時に、例外も掲載するので参考の事。
     
    例外
     
筏(いかだ)
  1. 「串打ち」の中で「筏」と呼ばれる技法は、一般的に重量の軽い細い鰻(天然鰻等)を姿のまま2本以上使用する仕事に用いられるが、仕事の内容によっては例外もある。
  2. 蒲焼完成品の形がに似ている事から呼称された技法であるが、6種類の形態の中でも、「串打ち」後の工程が最も困難とされるので、高い技術力が要求される。
  3. 鰻を2本使用する場合を「二長」・3本使用する場合を「三長」と呼称するが、注意点としては、長い鰻を上・短い鰻を下に置く事と、串打ち完成後の形が極端な逆扇形に成らない事である。(独特な横長の形態ゆえ「蒸し」と「本焼き」の工程で串を保持しがたくなり壊れ易くなる)
  4. 独特な横長形態であり総重量もかさむ為、親串他数本の串に添串と呼ばれる補助の竹串を挿入する事もある。
     
    二長 三長
     
  5. 基本的に「筏串打ち」は、売価の高い蒲焼(天然鰻他)に採用される丁寧な仕事である為、以下の様な悪い例は注意するとともに、難度の高い技法ゆえ、特に複数人数の職場においては、他人に迷惑がかからぬよう基本に沿った仕事をする事。
     
    悪例1 悪例2
    悪例3 悪例4
    悪例5 悪例6
     
ぽん半と四分一
  1. 「串打ち」の中で「ぽん半」「四分一」と呼ばれる技法は、一般的に売価の安い蒲焼を見栄え良く作成する仕事に用いられるが、標準より大きめの鰻を用いて「ぽん半」は1本の鰻から2枚・「四分一」は3本の鰻から4枚作成する事が出来る。