活鰻調理技術 「素焼き(白焼き)」

活鰻調理技術は「裂き」「串打ち」「素焼き」「蒸し」「本焼き」の5工程があるが、その中でも「焼きは一生」と表現されるように、「焼き」は高度な技術が必要とされる。
 
「焼き」に使用する調理器具に「火鉢(ひばち)」と呼称される焼き台があるが、その種類は大別するとガス・電気・炭火の3種類があり、以下にその特徴を列挙する。
ガス
3種類の火鉢の中では廉価版で普及もしており点火も早いが、反面独特な臭いと(ガス洩れ防止の為)火力が弱い欠点もある。
電気
ガスと炭火の中間の特徴を持ち、ガスより高火力(炭火よりは劣る)で点火も早いが、購入費が若干高く、性質上焼物の水分を蒸発させてしまう欠点もある。
炭火
3種類の中では最も高火力で遠赤外線効果もあり(焼物全体に火が通りやすい)燻製効果も得易いが、反面燃料代が高価である欠点を持つ。
上記以外にも遠赤外線使用の火鉢もあるが、鰻蒲焼店には一般的に普及していない。
以上、蒲焼の製造品質的な部分だけに限定すれば、現在では炭火が最上の火鉢であると思われるので、以下の「素焼き」「本焼き」においては炭火の火鉢を例にして説明する。
 
●炭火火鉢の準備方法
  1. 柔らかい火付きの良い炭や消し炭を使い、ガス焜炉(こんろ)等で燃やしながら火種を作る。
  2. 火種の置き方は、夏は炭の下に・冬は炭の上に置くと良い。(夏下冬上の諺(ことわざ))
  3. 2の後に、使用する分量の炭を互いの間隔を開けながら、火種を囲うようにして並べる。(炭同士の間隔を開けて空気の通り及び酸素供給を促すと火が起きやすい)  
  4. 火が起きたら炭を均(なら)す作業を行うが、火床(火鉢の底)は熱が中心に集まりやすいので、火床の手前側と奥側に炭を若干集める事によって火力が火床全体に平均して行わたるように均す事。
     
     
 
●「素焼き」
  1. 火床を均したら「素焼き(白焼き)」工程に入るが、「素焼き」には強い火力が必要なので、炭の火力が強い(新火)状態で作業する事。
  2. 「串打ち」後の鰻を、まとめて数枚保持した後、鰻の皮を下にして火鉢右端から順に3本の鉄灸(てっきゅう)にかける。
  3. 鰻を鉄灸にかける時、右側の鰻に次列の鰻の尾をかけると新火の上に垂れ下がらず尾の先が焦げにくく綺麗に焼き上がるとともに、上段鰻の串を下段鰻上に隙間無く乗せて串が焦げないようにするが、鰻の皮が鉄灸に接しないように注意する事。(鰻を上下左右に隙間無くならべると、熱が拡散しにくくなり高火力で綺麗に焼き上がる)
  4. 火鉢に鰻が乗ると同時に団扇(うちわ)を使用するが、団扇を扇ぐ事によって熱の対流・熱の抑制・煙の排出等が効率良く行えるので決して団扇の動きを止めないように注意する事。(団扇を止めると、串や鰻の一部だけが焦げたりするので注意)
     
    右端の下段@より
    上段のAへ
    さらにB〜Cとかける
     
  1. 鰻の焼き始めには、収縮率に拠り串の間の肉が持ち上がったり歪んだりする事もあるので、焼きながら修正する事。
  2. 数分後皮側が平均に焼け始めたら、鉄灸上の上下の鰻の身側を合わせて1回転させつつ上段と下段を入れ替える作業を手返しと呼称する。
  3. 手返しは常に親串を保持して作業するが、鉄灸の汚れが付着しやすいので慎重に、かつ素早く作業する事。(鉄灸の汚れが付着すると完成品の見栄えが劣る故注意)
     
    6,7
     
  1. 鰻の皮側が適度に焼けた後(最初は強く焼かない事)、裏返して身側を焼き始めるが、この時に鰓(えら)鰭(びれ)(かま鰭)と鰓骨(かま骨)も取り去るようにする事。
  2. 6と同様に鰻の身側も平均に焼け始めたら、鉄灸上の上下の鰻の皮側を合わせて1回転させつつ上段と下段を入れ替える作業を行う事。
  3. 以上の工程を繰り返し行いつつ、(手返し百遍のことわざ 火鉢全体を使用して鉄灸上の鰻を上下左右に入れ替えながら、身側も皮側もまんべんなく焼きあげる事。
  4. 「素焼き」仕上がりの状態は、鰻の身側表面に油が滲んで皮側表面の焼き跡が小さな斑点状態(焼き跡が大きい時は焼き方が均一では無いので注意)の頃が適切であり、焼き過ぎに注意して素早い動作で作業を行う事。
     
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  1. 「素焼き」の完成度に拠って「本焼き」の仕上がり具合に影響が出るので、「素焼き」 は個々の鰻本体が何れも平になるよう(身と皮の焼きの比率は概ね4:6が基準) に均一かつ周到に行う必要がある。
  2. なお「素焼き」工程中は、束子(たわし)等で鉄灸上の油汚れを掃除して清潔に作業する事。
  3. 以下に「素焼き」の悪い例を列挙するので、くれぐれも注意する事。
     
    悪例1 悪例2
    皮目を強く焼き、肉目を浅く焼くと身がそり返ったり、皮目に大きなこげ目ができたりします 肉目を強く焼き、皮目を浅く焼くと、身が丸まったり表面の肉がハジケたいりする。身の表面がハジケると色付けした時照りが出なくなる
     
  1. 完成品の短時間保存前の準備方法(長時間保存は活鰻の風味を損なう為不可)は、自然冷却方法と水洗い後(表面の余分な脂と汚れを除く為)自然冷却方法があるが活鰻の種類や仕事の内容等で適切な方法を選択する事。