活鰻調理技術 「本焼き」

関東風(江戸前)活鰻調理技術の最終工程である「本焼き(蒲焼)」は、5工程の中で最も難易度が高く、「焼きは一生」と表現される程熟練された技術と経験を必要とする。
 
以前4工程を丁寧に製作しても、「本焼き」の仕上り具合で台無しになる可能性もあるので、慎重かつ繊細に色付け作業を行うよう注意する事。(枚数が増える程難易度は高まる)
 
「本焼き」に重要不可欠な「タレ」は、蒲焼完成品の味覚を決定するとともに、永年吟味され鰻蒲焼店の特色を醸し出す要素でもあるので、日々不変が大原則である。
ゆえにタレの製造取扱いには仔細な注意を促すとともに日々の管理も同様である。
(「本焼き」の回数を重ねる度、タレに鰻の味がしみて深みが加わってゆく)
 
●「本焼き」
  1. 「蒸し」で生じた水分を取り除きタレを付けてから1度目の色付け作業をするが、タレを鰻全体に行き渡らせるとともに余分は排除するタレを切る事。(タレ受けを利用)
  2. 鰻の保持方法は、「串)打ち」時の竹串の数にもよるが、基本的には右手親指と人差し指で親串を保持・右手中指で2番串を保持・右手薬指で3番串を保持しつつ、左手親指と人差し指で4番串を保持して、以下止串まで左手の指を使い繊細に保持する。
     
    タレ受けを利用してタレを良く切る
  1. 「本焼き」では、火鉢の火力加減が重要な要素で有り、炭が一皮被っている(白灰)ようなやや弱火が適している。    (身側に色を付けるとともにタレの味を吸収させる為)
  2. 「本焼き」用の火床の作成方法は、火鉢の手前側に炭を 集めて火力を幾分強めるとともに、火鉢の真中近辺は炭を散らして火力を幾分弱める事を一般的とする。
    (鰻かま部は凹凸があるゆえ色付けがしにくいが、上記の方法により改善されやすくなる)
     
    3,4
  1. なお「炭火」火鉢は炭を燃やす特色上、「ガス」「電気」火鉢より火力の強弱が在るので、その特色を充分に活用して「本焼き」用の火床を作成する事が必要であり、かつ火鉢全体の火力特性を把握する事も必須である。
  2. 「本焼き」時の焼き方(複数)は、火鉢内の火力の強弱を見極めつつ最適な場所に、身側を下に向けて、1枚目を下段鉄灸にかけた後2枚目を上段鉄灸にかける。
  3. 6の後は、同様にして順次火鉢の左から右に向かい鉄灸上にかけてゆく事。(「素焼き」とは逆の順序)
     
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  1. 7の後、火鉢全体の火力の強弱を見極めつつ最適な時期に、下段及び上段にある鰻の色付きを確認しながら上下左右の入れ替え作業を行う事。
  2. 「本焼き」工程全般に注意する事は、身側の焼き過ぎによって、付着しているタレが焦げたり(蒲焼完成品が黒ずむ)身が弾けたり(蒲焼完成品の光沢が無い)するので、適時に繊細に手早く作業する事である
  3. 団扇の効能
    1. 「本焼き」作業時においては、団扇の操作を常に止めずに軽く扇ぐ事が必要である。
    2. 団扇は、鰻から火床に落ちたタレの煙を押え瞬間的に燻製状態にする事によって、風味と香ばしさを醸し出す蒲焼完成品に仕上る事が出来る その他にも、団扇の役目と効能には   
    3. 火を起こす   
    4. 灰を払う   
    5. 煙を払う   
    6. 熱を散らす   
    7. 熱を押える   
    8. 串を焦がさぬ
       等があるゆえ、場面に応じて使い分けられる事が必要である
     
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  1. 「本焼き」は以上の作業を行いながらタレを3回付けて焼き上げるのだが、各々の色付け時の留意点を下記に列挙する。
    1. 1度目の色付け時:火鉢上の鰻全てに薄く満遍なく色を付ける。
    2. 2度目の色付け時:火鉢上の鰻全ての味と色に深みを持たせる。
    3. 3度目の色付け時:火鉢上の鰻全ての照りを出す。(照りの出し方:3度目の色付け時の最適な時期に鰻を反転させ皮側を炙りつつ、身側に付いてるタレが煮詰まって緩く水飴状に固まり始める頃を良しとする)
  1. 「本焼き」完成後の蒲焼は容器に並べて、決して重ねないように注意する事。(重ねる事によって蒲焼の照りが台無しになる)
     
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  1. 蒲焼完成品を盛付ける時は、左手の指で身の薄い箇所を保持して右手で竹串を回転させつつ身から外すが、慎重に外さないと身に穴が空いて美観を損なうので注意する事。
     
    完成品