鰻を使って

昨今の調理士業界の課題としては、少子高齢化に拠りまして、若手調理士の不足という由々しき問題に直面しております。

 当会が所属しております調理士会の団体であります【全国調理士紹介事業福祉協会】に措きましては、問題解決の為に、各調理士会の垣根を越えて交流を深め若手調理士の発掘育成に努める方針でございますので、今回の「第11回技術講習会」は、団体の同胞であり、 横浜の名門調理士会でございます【鈴庖会】役員様を講師に招聘致しまして、鰻を主材料とした会席風の献立を作成して頂くと共に、ご教授して頂く事になりました。

 私共が日々の仕事の中で蒲焼として扱い慣れております、鰻を多彩に使った料理の数々をご堪能頂けたら幸いでございます。

講習会風景
講習会は、【鈴庖会】鈴木会長以下10名の役員皆様と、【野田屋東庖会】役員会員併せて50名の参加者が、お得意様の「川千家」様に集いまして、盛況に開催されました。

 進行は、【鈴庖会】鈴木会長の挨拶と【野田屋調理士紹介所】江部所長の挨拶で始まりまして、【鈴庖会】新田技術部長が作成して下さった献立を、若山理事長以下役員皆様に実演指導して頂きました。

 そして、今回は受講生に徹している当会会員が、夜の更けるまで熱心に聞き入る姿を見ていると、当会の明るい未来を確信すると共に、調理士業界の新しい時代が近づきつつある事を予感致しました。
野田屋東庖会役員 鈴庖会役員皆様 江部所長・鈴木会長・笠松会長
講習風景1 講習風景2 講習風景3
【付出し】
《鰻昆布巻き》

 鰻はぬめりを除き、背開きにして中骨をとり、串打ち、白焼き した後、縦に2つ割りする。皮目を内側にして、頭と尾を重ね、 芯にして昆布にてまく。
※昆布は同割の水と酒で柔かくもどしておく

鍋に昆布巻きを並べ、濾したほうじ茶と同割の酒をたっぷり注ぐ。落し蓋をして炊く。
昆布巻きの丈ぐらいに煮つまったら、砂糖と生姜で調味して、煮つめ上がりに水飴を加えて照りをつける。
醤油少々にて色をつける。

※茶は臭みを取り、柔かくする効果がある
《牛乳羹 黄身餡》

 鰻は水洗い、筒切り、白焼きにして中骨を抜き、醤油、白醤油、味醂、酒を合わせた地にて炊く。
おか上げして、汁気を切っておく。

牛乳を水で割り、360ccに対して23gの粉寒天を煮溶かし薄い味をとる。

流し缶に半分量を流してある程度固め、上からさらに寒天地を注いで固める。

卵黄を少量のだし汁でとき、塩と砂糖で味付けした後、白ワインを加えて2枚鍋で練り、裏ごしした黄身餡を敷く。
【御椀】
《清汁仕立 鰻の包み 枝豆豆腐 茄子 茗荷 白髪葱》

(1) 鰻は開き骨切りとする。薄塩をあて葛うちした後、約1割強の酒 を加えた水に、さし昆布した地でおか上げする。

(2) 枝豆は茹でて薄皮をとり、すり潰し裏ごしする。出汁8、葛1、  枝豆2〜3、塩少量、砂糖で薄味つけ良く練る。この時枝豆は火からおろす直前に入れ、色が飛ばないように手早く缶に入れ、冷水にて冷し固める。

(3) 小茄子は薄切り、水にさらして塩ゆでし、冷水にとり、吸い地で煮含める。
 ※天盛りの針生姜、白髪葱を加えたのは強い鰻の味に対抗する強さを持たせるため

(4) 鰻葛打ち、枝豆豆腐は御客に出す時、一度蒸し上げること。
【造り】
《鰻焼き洗い 葉付胡瓜 赤紫蘇 水前寺海苔 より胡瓜 梅肉》

(1) 串打ちして皮目を強めの焼霜にする。これを骨切りし、5枚落としにして氷水にとる。

(2) 梅肉は裏ごしした梅干しを酒と味醂でのばし、酸味を和らげる為に、おかゆの裏ごしを少量混ぜ合わせる。

※梅肉は洗いの味わいに良く合うのでここでは用いた
【焼き物】
《鰻木ノ芽田楽 一寸豆 はじかみ》

(1) 骨切りした後平串を打ち、白焼きにする。

(2) 木ノ芽味噌:西京味噌1s、酒1合、味醂1合、卵黄5個にて 玉味噌を造る。
 これを出汁にてのばした味噌に、叩き木ノ芽を混ぜる。

(3) 味噌をぬり焼き上げる。

(4) 豆は皮をむき、出汁に砂糖と塩、薄口醤油で薄味にて色良く炊く。
【蒸し物】
《鰻養老蒸し 針海苔 山葵 銀餡》

(1) 長芋は皮をむき約15pの長さの芋ぞうめんに包丁して、酢水に浸し、薄塩する。

(2) 鰻は白焼きした後、鰻たれに1回つけ焼きする。

(3) 鰻・長芋は器に巣籠り状に盛り、器ごと蒸す。

(4) 銀餡をかける。(出汁・塩・味醂)

 ※銀餡 ・・・醤油は使わない(色をつけないもの)
 ※吉野餡・・・淡口醤油にて少々色をつける
 ※琥珀餡・・・濃口醤油を使う
【揚げ物】
《鰻香揚げ 針大葉 青唐 板海苔 素麺 紅葉おろし 天だし》

(1) 中ぐらいの大きさの鰻を開き、白焼き後、3等分し、縦4等分にする。
 小麦粉をまぶし、布ごしした卵白をまぶす。
(2) 針打ちした大葉をつける。大葉にも小麦粉をふっておくと良い。
(3) 160〜170度の油にて色良く揚げる。
(4) 青唐・海苔は天ぷら用の衣より薄めの衣にする。
(5) ソーメンは扇面状に薄衣で茶筅で散らす。
(6) 天だしはだし6、味醂1、薄口醤油1
(7) 大葉ジソはだしがよく含むので薄味にて。
【酢の物】
《うなきゅう 独活 南瓜 ラディッシュ 黄身芥子》

(1) 鰻は縦半分に切って、熱湯にてさっと通し霜降り状態にする。皮のぬめりを良くとる。
(2) 酒1、水1、醤油0.4、味醂0.5、で味付け、地に入れて炊く。
(3) 流し缶に薄い輪切胡瓜、鰻を並べる。
(4) (2) の地をこす。
 ゼラチン(板ゼラチン1枚2gを2枚)汁の粗熱を取る。
(5) 食材の丈まで静かに注ぎ、冷し固める。
(6) 独活は短冊、南瓜は短冊にてゆでる。ラディッシュは輪切。
(7) 鰻胡瓜の煮こごりと他の野菜を乱盛りにする。
(8) 土佐酢をかける。黄身酢に、とき芥子を入れた黄身芥子を添える。

 ※土佐酢・・・出汁6、淡口醤油1、味醂0.5、酢1
 ※黄身酢・・・卵黄4個、甘酢45t
 ※甘酢 ・・・酢1.8L、水900t、砂糖750g、塩少々。
【食事】
《鰻一本すし 千枚生姜 花山椒》

(1) 鰻は腹開きして中骨を取り、白焼きした後、約3回ほど鰻たれでつけ焼きにする。

(2) 鰻の皮目に、甘みを控えたすし飯をのせ、棒ずしにする。
 ※花山椒は、春先に大量に採取し色出ししてから、味醂と淡口醤油で炊いたもの

 ※千枚生姜は甘酢にする(水2、酢2、砂糖0.5、塩少々)新生姜を漬ける
 ※すし酢・・・酢1升2合、砂糖1s、塩350g、昆布にて
 ※米1升(1.4s)に対して、合せ酢1合ぐらいが良いと思う
【水菓子・甘味】
《苺 キウイフルーツ ヨーグルトムース》

(1) 寒天2本を水に30分以上浸し、ふやかす。
 板ゼラチン(ゼラチンリーフ400を使用)24枚を2分水に浸し、水分を切って置く。

(2) 卵白3ヶ分を泡立てて置く。

(3) 水3合にふやかした寒天、砂糖300gを加え、火にかけ、1割煮詰める。
ゼラチンを加え、濾した後熱い内に、泡立てた卵白に手早く混ぜ合わせ、40度位に冷ます。

(4) 生クリーム1合を8分位に立て、レモンの絞り汁1/2ヶ分、プレーンヨーグルト1.5sを少しずつ加え、混ぜ合わせる。

(5) 寒天の地とヨーグルトをむら無く混ぜ合わせ、流し缶に入れ冷し固めた後、包丁し、苺、 キウィフルーツをもり付ける。

 ※ヨーグルトムースは通年使用できるので、季節のフルーツで可
【参考資料】
吉野葛 山野に自生するまめか荳科の藤本植物
 葉は円形の三葉から成る
 夏季紫紅色の花を穂状につづる
 塊根から採った澱粉が葛粉で、秋末から翌年2月頃の発芽前までに堀取る
 葛根および葛の花の陰干にしたものを煎じて飲めば酒の酔いを醒ます効果がある

吉野地方は、原料と水が昔から豊富なため、製造が盛んだった
 
他の澱粉に比べ、煮た状態が滑らかで、煮える温度が低いため
 調理しやすく、加熱された状態を長く保つためおいしさが長く保たれる

昆布 利尻昆布 ヨード分が多く含まれてる(ぬめり)、一般的に、千枚漬、湯豆腐に使われる。使ってしまった後は、食べてもうまくない
羅臼昆布 黒潮の通る羅臼あたりでとれる。塩分が強く感じられる。生産量は少ない。真昆布に比べて身が薄いので、濃い目の出汁が出来やすいが、濁りやすく、料理屋の1番出汁には不向き
日高昆布 柔かく煮上がりも早く、昆布巻きなどに適している。蕎麦屋の「返し」などに用いられる
長昆布 根室あたりで採れる。日高昆布のように煮上がりが早く、それ以上に煮崩れないので、よくおでん種などに使われる。旨味は少ないが、飽きのこない味
真昆布 通称、山出し昆布、函館周辺で採れる。身が厚く出汁を取ると清らかに澄み、とても貴賓のある味わいがある